「日本酒テイスティング」

日本酒における「キレ」とは何か。香りや味をどのような言葉で表現すればよいのか。その悩みに答えてくれそうな本を読んだ。2014年に世界唎酒師コンクールで優勝した北原康行氏の「日本酒テイスティング」(日経プレミアシリーズ)である。

これは、画期的な本だった。まず、「キレ」とは何かがきちんと説明してあった。私は、「キレ」を、余韻がなく、飲んだらすぐにスーッと味が消えるような感覚でとらえていた。だが、北原氏によれば、それは「余韻が短い」ということで、「甘くてベトベトしたものがいつまでも口の中に残る感じがしない。フィニッシュがすっきりとしている。余韻がスパッと切れる」ことを「キレ」という。そして、余韻が長くてもキレがいいという表現を使う。つまり、酒の味が口の中にジワーッと残ったとしても、それがスパッと切れれば、キレがいいということだったのだ。なるほど、と思った。余韻が長い、短いも、「飲んだあと、香りや味わいが8秒くらい残れば『余韻が長い』」、「5秒以下なら『余韻が短い』」と、大変に明確だ。後は、北原氏が言う「余韻は長いのにキレがいい」酒を飲んでみて、確かめれば「キレ」とは何かが感覚としてつかめるかもしれない。北原氏が「余韻が非常に長いのにキレがいい」として挙げていたのは、出羽桜純米吟醸江戸ラベルだ。

また、田崎真也さんの本を読んで、「こんなふうに香りを例えられても、よく分からないのでは」と思ったが、それは単に努力不足だということも納得した。黒スグリが分からない、などと言っているのではなく、黒スグリの香りを嗅いで覚えなければダメということだ。

その上で、日本酒を「エレガント」と「パワフル」に分ければ違いが分かりやすいと教えてくれる。その方法として、エリア(産地)とタイプ(特定名称酒の8分類)で判断しろというのも分かりやすい。エリアについては、東日本はすっきりとしていて、西日本は味が濃いようなイメージは何となくあったが、はっきりと言われるとなるほどと思う。この本に添ってテイスティングをしていけば、香りや味の正確な表現法が分かるのではないかと期待した。

しかし、ちょっとした疑問もあった。

「白ワインにあって日本酒にないものは酸味です」と書いてあるが、別の場所では、日本酒のテイスティングで「酸味を感じます」や「酸味もある」などの表現が使われている。実際、日本酒を飲んでいて、酸味がないとはとうてい思えない。「酸度」というものが存在するし、乳酸、コハク酸、リンゴ酸、そしてクエン酸も含まれている。それでもワインの5分の1くらいらしいので、その意味で「酸味はない」ということなのだろうか。

「辛いお米が存在しないように、辛い日本酒も存在しません」と言いながら、「辛口です」と使う。もっともこれは、「『甘すぎない』というニュアンスで、辛口と表現することはあります」とも書いてあるのだが、そういう意味でいいのだろうか。

これらは講義なら質問すればすぐに解決しそうな話なのだが、本には質問できないのでまだるっこしい。

また、料飲専門家団体連合会(FBO)が出している教科書などでは、大吟醸酒や吟醸酒などの「薫酒」には、白身魚の刺身が合い、前菜系料理との組み合わせを考えるのが現実的としている。

ところが北原氏は、純米大吟醸は薫酒だが前菜系の料理には合わないと書いている。また、同じ薫酒の純米吟醸酒でも出羽桜は刺身に合わないといい、浦霞は刺身に合うという。

薫酒には香りの高い料理、爽酒にはさっぱりした料理か、逆に脂っぽい料理、醇酒にはしっかりした味の料理かバター、クリーム系、熟酒には濃厚な料理と、ざくり覚えていたが、それは大きな傾向であって、1本1本、酒の個性が違うように、組み合わせも違うのだろう。

最も、本当のことを言えば、家庭では料理によって酒を合わせるなんて無理だと思う。普通は淡泊な味ばかりとか、濃厚な味ばかりとかではなく、一回の食事にはいろんな味の料理を食べるだろう。その日食べる料理に合わせて、いろんなタイプの酒を用意することも出来なくはないが、日本酒は開栓したら早めに飲み切ってしまわないと風味が変わってしまう。たいていは、1本買って、1回の食事で、いろんなタイプの料理を食べながら飲み切ってしまうものである。例えば、刺身とイカの塩辛と鰻を食べる日は、どれに酒を合わせるべきか。爽酒にして、塩辛や鰻にはリセット効果を求めるのが正解なのだろうか。

 

 

 

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