菊姫山廃仕込純米酒

田崎真也氏はワインのソムリエとして有名だが、日本酒のテイスティングの基準にも大きく関わっているとお聞きした。その田崎氏が、120種類の日本酒をテイスティングして、どのような味と解釈したかを書いた本が、「No.1ソムリエが語る、新しい日本酒の味わい方」(SB新書)だ。日本酒の味や香りをどのように表現するのが正解なのか、よく分からずに悩んでいたので、読んでみた。

この本に出ているのと同じ日本酒を飲んでみて、田崎氏のテイスティングと比べてみる。とりあえず飲んでみたのが、日本酒で地理的表示、GI(geographical indications)を初めて取得した石川県白山市にある菊姫合資会社の「菊姫山廃仕込純米酒」だ。原料米は兵庫県三木市吉川町産の山田錦100%使用。精米歩合70%。アルコール分は16度以上17度未満とやや高めだ。あまり削りすぎず、特A地区の山田錦の味を前面に押し出した、濃醇な米の旨味が想像できる。山廃なので、乳酸も強いはずだ。

黄色がかった、いかにも濃醇そうな色。サワークリームのような、乳酸系の香りがする。味はヨーグルトのような旨味に、しっかりとした酸味、そしてじわーっと余韻が続く。全体的には辛口だが、米の旨味がとてもよく出ている。

これを田崎氏はどう書いているか。「酒母(酛)の違いを味わう」として、同じ菊姫の特選純米と山廃仕込純米酒の比較の中で、こう書いている。

「(一方の)山廃には、米や麹由来の香りよりは、乳酸発酵による乳製品的な香りがよりはっきりとしており、サワークリームやヨーグルト、クリームチーズや発酵バターのような香りに、杏仁豆腐や杉の木の香り、ほのかに白いスパイス香や菩提樹の花の香り、栗のようなナッツ香などが調和する」「味わいは(中略)山廃はよりしっかりとした酸味とコクを与える旨味が広がり、余韻が長く持続する」

自分の感覚ともそれほど外れてはいないが、杏仁豆腐や杉の木の香り、スパイス香や菩提樹の花の香り、ナッツ香などは分からなかった。そう言われて改めて嗅いでみると、なるほど、このちょっとウイスキーみたいな甘い香りを杏仁豆腐とか、ナッツ香というのかな、などと思う。菩提樹の花については、嗅いだ記憶がないので全く分からない。

さすがに有名なソムリエだけあって、表現も豊かだし、微妙な香りまで嗅ぎ分けていると感心するが、我々にはちょっと難しいかもしれない。この本には「ライラックやスイカズラの花の香り」「ブランマンジェの香り」「ほのかに青竹やジュニパーベリーのようなスパイス香」などとあるが、もはや香りを何かに例えて伝えるのに、その例えられているもの、そのものが分からない。田崎氏のソムリエとしての技能は伝わってくるが、酒の香りは伝わってこない。これではやはり、何が正解なのか、分からないのである。

もう少し単純明快な答えが欲しい。日本醸造協会や日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会、料飲専門家団体連合会、日本酒学講師の会などに、その答えを作ってほしい。

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