東寺と鳥せい

日帰りだが、京都へ出張した。早めに新幹線に乗って、京都駅から歩いて東寺へ行った。

京都へ出張するたびに、東寺を訪れる。東寺には五重塔と講堂、金堂があって、いずれも国宝だ。五重塔はふだんは中に入ることができないが、講堂と金堂を見るだけでも十分である。講堂には二十一体の仏像が安置された立体曼荼羅がある。ぎっしりと仏像が並ぶ様子は圧巻で、まさに天界が地上に再現されたように思う。金堂には巨大な薬師如来坐像と、その両脇に日光・月光菩薩が安置されている。いつ行っても、不思議と人が少ない。時には、自分一人(正確には売店のようなところにお寺の人がいるので一人ではないが)になることもある。

この日も平日なので人は少なく、外国人がほとんどだった。美術館では鑑賞の対象である仏像が、ここでは信仰の対象である。私自身にはあまり信仰心はないが、それでも仏像を見るというより、「ほとけさまに会う」という感覚になる。金堂、講堂には木の壁に少し出っ張った部分があり、椅子として使っていいのかどうか分からないが、みんなここに座ってじっくりと仏と対面している。私も金堂でそこに座って薬師如来坐像を見ているうちに、他に誰もいなくなってしまった。静寂の中で、私が仏を見ているというより、仏にじっと見つめられているような気持ちになった。つい、心の内を話してしまう。心の中で仏に話していると、ふだん、自分の心の内にはあるはずがないと思っていた言葉をそこに見つけて、ギョッとする。

仕事が終わると、京都タワーの展望室3階スカイラウンジ空-KUU-に行く。ここも京都で必ず足を運ぶ場所のひとつだ。展望室の最上階まで上らなくても、ここで酒を飲みながら京都市内を見渡せる。ブルックリンラガーを飲み、京都タワーサンドに移動。京都タワーの中で、飲食店が並ぶフードコートのような場所だ。お店で買った食べ物や酒を、フロアで共通のテーブルで飲食できる。伏見の神聖酒造がやっている焼き鳥屋、鳥せいで、焼き鳥セットたれ(正肉、葱間、つくね)、ももみ唐揚げを注文し、神聖酒造の蔵出し「原酒」を2杯飲む。原酒は優しい甘みで、後口もスーッときれる感じ。甘いけれどすっきり、淡麗だ。

ゆっくりと酒を飲むうちに、帰りの新幹線の時間が迫ってくる。だが、もうちょっと何か食べたかった。慌てて京都駅・拉麺小路の「麺屋いろは」で、富山ブラック味玉入りを食べた。これはあまり美味しくなかった。麺がまるで札幌ラーメンの麺のように黄色く縮れているのだが、食感がぼそぼそしていてよくない。スープももうちょっと複雑さがほしいところだった。

「桃の滴 愛山」愛山の独特の酸味

「桃の滴」は京都の松本酒造の酒である。昔、京都の旅館「柊家」に二度、泊まったことがあるが、日本酒はこの「桃の滴」の大吟醸しかなかった(今はどうなのかわからない)という記憶がある。柊家の繊細な和食に合う、繊細な酒だった。

その時のイメージが変わってしまったのが、この「桃の滴 愛山」だ。アルコール分16度、精米歩合65%。愛山は晩生で倒れやすく、非常に作りにくい米だが、灘の剣菱酒造が契約栽培を続けて守ってきたという。「桃の滴 愛山 純米酒」はこの愛山を100%使っている。

味はかなり個性的。柊家で飲んだ「桃の滴」とは全く違う印象だ。まず、米の甘さ、そして独特の酸味を強烈に感じる。そしてキレがある。精米歩合が65%と低いのは、心白が大きくて壊れやすいためだろう。

愛山という米の特徴が独特の酸味によく表れていて、実にいい。上喜元や初孫にも愛山を使った酒があるという。この酸味をまた別の酒でも味わってみたい。