岩の井純米吟醸「雄町」特別限定

きれいに仕上がる山田錦に比べ、雄町はふくよかで複雑な味になるといわれている。個人的にも、「優しい」というよりは、「力強い」というイメージがあった。だが、この「岩の井純米大吟醸雄町特別限定」の雄町は、実に優しい味で、驚いた。千葉県御宿町の岩瀬酒造。精米歩合は50%。山廃仕込みで、アルコール度数は16度。

まず、口当たりが信じられないほど柔らかい。シルクのようだった。そして、雄町らしいふくよかさと旨味、酸味が広がり、最後にキレ。雄町の特徴であるふくよかさや複雑と、優しさや上品さが共存している。私が飲んだ雄町の中では、今のところ、最高の味だと思う。

岩瀬酒造は濃醇で酸のきいた酒が得意らしいので、このように優しい味は純米吟醸ならではの特別な味なのだろう。柏高島屋で試飲販売会があって、あまりの美味しさに衝撃を受け、すぐに購入した。

一緒に食べたのは、豚ばら肉の柚子胡椒、湯豆腐、そうめん。湯豆腐やそうめんはポン酢。柑橘系の酸っぱい味は、この「雄町」の優しさや複雑さと合ったかどうか分からないが、酒は進んだ。

蕎麦の名店「松風庵」と「花の九十九里」

我孫子、柏地区には、蕎麦の名店が多い。有名なのは柏の竹やぶだが、湖庵や松風庵も素晴らしい。

久しぶりに知人と2人で我孫子の松風庵に行った。ここは蕎麦が出るまで時間がかかるので、まず瓶ビールを注文する。アサヒスーパードライの中瓶に、蕎麦の実と滑子、青唐辛子を和えたものが出てくる。これが実に美味しい。

ビールを飲みほしてもまだ蕎麦はこない。「冷酒」とだけ壁に貼ってある日本酒を注文する。出てきたのは千葉県山武市の寒菊銘醸の「九十九里 純米酒」だった。日本酒らしい、しっかりとした酒である。飲み口は柔らかいが、後味に甘味と苦みがあって、米の旨味がきちんと表現されている。燗でやや辛くしてもいいかもしれない。

蕎麦は平打ち蕎麦と細打ち江戸蕎麦の合盛せいろと、平打ちと極荒蕎麦の合盛りで鴨汁蕎麦を2人で食べる。平打ちと細打ちは蕎麦の香りがふわーっと立って、スーッと体に入っていくような感じ。日本酒で言うと大吟醸である。極荒は無濾過純米原酒みたいな、強い蕎麦。蕎麦粉の味が力強く、のど越しはいいけれど、味はガツンと残る。塩で食べると大変に美味しい。この塩で食べる極荒と九十九里がとてもよく合う。九十九里は地元産のこしひかりを使っている。精米歩合は65%。癖がなく、実にオーソドックスな日本酒の味。味が濃厚な松風庵の蕎麦には、淡麗辛口よりもこの方がいい。

松風庵でお昼から、九十九里を飲みながら蕎麦を食べるのは、何ともいえず贅沢である。

 

 

純米酒「白露」とすき焼き

一人でボーっとしていると、アッという間に時間が経つ。お盆休みが5日間あったが、このブログを開設する以外、何もしないうちに終わってしまった。

昼食を食べたかと思ったら、もう夕食の時間が来て、慌てて買い物に行くのだが、スーパーで売っている野菜は一人では多い。で、本日のメニューは、一人すき焼き、ひじき豆、そして豆酪(豆腐のもろみ漬け)にした。一人すき焼きの具は、豆腐と牛肉と葱のみである。それで足りなければ、歩いて行けるラーメン店で〆ることにした。

すき焼きに合う日本酒とは? 「日本酒の教科書」によると、古酒などのいわゆる熟酒となっているが、今は夏の酒しか手元にない。スーパーには熟酒が売っていない。仕方がないので飲み残しがあった千葉県富津市の和蔵酒造の純米酒「柏寿」を飲んだ。「柏寿」は米の旨味や酸味がちゃんとあり、おそらく醇酒であると思われるが、すき焼きにもわりと合う。すき焼きは熟酒なんて、誰が決めたのか、と思う。こういうマッチングは唎酒師や日本酒検定の試験にも出るだろうから、覚えなければならないが、やはりどこかで、料理との相性なんて個人の好みだし、爽酒や薫酒でもすき焼きに合うものもあるのではないかと思ってしまう。

それは「身体を温める食材」「身体を冷やす食材」などの分類にもいえる。ナスやトマトなどの夏野菜は身体を冷やし、牛肉や豚肉などは身体を温めるという陰陽に基づいた迷信である。マクロビオティックにも同じような考え方はあるが、科学的には何の根拠もない。科学的に根拠のないものが、酒類総研の教科書(例えば「酒仙人直伝よくわかる日本酒」)などに掲載され、唎酒師や日本酒検定の問題として出されるのは疑問である。

などと書いているうちに「柏寿」はなくなり、次の酒はやはり純米酒ということで、「白露 純米酒」である。新潟市の高野酒造。精米歩合は60%で、日本酒度は+3~+5。アルコール度数15度~16度。純米酒としては標準的な酒である。

「白露」は冷蔵庫に入れておいてので、雪冷え(5度)くらいになっている。これを外に出して、花冷え(10度)からだんだん冷や(常温)くらいになる温度変化を楽しみながら飲む。純米酒らしい米の甘味と膨らみがあり、それが余韻として残る。ふわっとして、柔らかくて、酸味もあって、じわじわと口の中に香りが残る。後味はやや辛い。濃厚なすき焼きの味とも合わなくはない。日本酒らしい、いい酒だなあと思う。

 

 

 

映画『おかえり、ブルゴーニュへ』

最近、ワインと日本酒についての2本の映画を見た。ワインは「おかえり、ブルゴーニュへ」。「猫が行方不明」のセドリック・クラビッシュ監督の新作だ。日本酒は、瀬木直貴監督、川栄李奈主演の「恋のしずく」。「おかえり、ブルゴーニュへ」はタイトルの通り、フランスのブルゴーニュが舞台で、「恋のしずく」は広島の西条が舞台だった。

この2本は、それぞれワイン造り、日本酒造りの現場を丁寧に描いているのと、造り手たちの家族の物語になっているところが、よく似ている。

「おかえり、ブルゴーニュへ」は、ワイナリーを飛び出して世界を巡っていた長男が、父親が危篤という知らせを受けて、地元へ帰ってくるところから始まる。ワイナリーは長男の妹の長女と弟の二男が守っているのだが、やがて父親は亡くなり、3人のきょうだいが力を合わせてワイン造りを続けていくことになる。相続税を支払うために畑を売るかどうかで、3人は揉める。長男は恋人との仲がうまくいっていないし、長女はワイン造りの指揮をとる自信がない。二男は妻の実家との関係がうまくいかない。それぞれ悩みを抱えながらワインを造っていく物語は、よくあるけれど、細やかに描かれていて、心を打つものだった。ブルゴーニュのワイン畑の風景も気持ちがよかった。

ところで、映画の中でワイン造りを指揮する長女が悩むのが、除梗(じょこう)率だ。「梗」とは、ブドウの実についている小さな枝である。かつて、ワインは「梗」を取り除かずに造られていたのだが、やがて、「梗」を取り除くことで、えぐみを取り去るようになった。除梗すればえぐみはなくなりピュアな味になるが、除梗しすぎると味の複雑さやスパイシーさもなくなってしまう。100%除梗するという考えもある一方で、全く除梗しない全梗発酵という考えもある。

これは精白率(精米歩合)にも似た話だなと思って、面白かった。ついワインが飲みたくなって、ブルゴーニュの赤を買った。ブルゴーニュはほぼピノ・ノワールである。有名なオート・コート・ド・ニュイの2015年。5500円。これは100%除梗されていて、ピノ・ノワールのブドウの味が純粋に表現されている。上品で繊細、シルキーな味わいだった。ただ、一緒に食べたブルーチーズの蜂蜜掛けは合わなかった。チーズがそれしかなかったのだが、マリアージュとしては失敗だろう。ブルーチーズの濃厚さはピノ・ノワールの繊細さを感じられなくしてしまう。

精米歩合もかつては低いほどいいという考えがあって、鑑評会で金賞をとるには「YK35」(山田錦、熊本9号酵母、精米歩合35%)などと言われたが、最近は90%など、ほとんど食米みたいな精米歩合の日本酒も造られている。それはそれで、複雑で深い味わいがあって美味しい。最近、精米歩合99・9%の「九九・九」という酒が話題になっていたが、昨日、近所のスーパーで、精米歩合100%、つまり、全くの玄米で造られた日本酒を発見した。「醍醐のしずく」を造っている千葉の「寺田本家」の「発芽玄米酒 五人娘むすひ」である。といってもこれは日本酒ではないのだろうか。「九九・九」は純米酒だが、「むすひ」はラベルに「その他の醸造酒」と書いてある。少しでも精米していないと「清酒」にはならないのだろうか。瓶内発酵しているので「横倒厳禁」などと書いてあって、早く飲んでしまった方がよいのか、少し発酵させた方がよいのか、迷っている。食べ物には合わせにくいだろうなと思う。

千葉の地酒 柏寿

日本酒を飲むようになって、自分の「基本の酒」は何だろうかと考えるようになった。

あまりに多くの酒がある。何かを基本に置いて、そこから考えるようにしないと、味の「位置」が分からない。

かつて、私にとっての基本の酒は青木酒造の「雪男 辛口」だった。しかし、それからずいぶん、好みも変わってしまった。今、基本の酒にするなら、地元の酒がいいだろう。特別な酒でなく、地元で普通に飲まれている酒である。

私は千葉県に住んでいるので、千葉の酒が地酒である。高級ではないけれど、安くもなく、しっかりとして、米の旨さも、酸味も、キレのよさも、すべてがきっちりと味わえる酒として、和蔵酒造(千葉県富津市竹岡)の純米酒、柏寿がある。精米歩合は62%。最初に米のふくよかな甘味があって、次に酸味が感じられ、スッとキレる。キレるけれど、米の甘味の余韻も残る。

柏寿はインターネットで調べてもなかなか出てこない。特別な酒として、外に出すような酒ではないのかもしれない。しかし、地酒とはそういうもののように思う。